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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)576号 判決 1955年6月30日

原告 田辺良隆

被告 田端復興土地区画整理組合 外一名

主文

被告組合に対する関係において、被告組合の設立は無効であることを確認する。

被告東京都知事に対する関係において、同被告が昭和二二年一二月一二日附東京都北区田端復興土地区画整理組合設立認可申請に基き昭和二三年三月一三日にした被告組合の設立認可の無効であることを確認する。

訴訟費用は被告両名の負担とする。

事実

昭和二四年(ワ)第四九七七号事件・昭和二五年(ワ)第五七六号事件原告(以下原告と略称)訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、被告田端復興土地区画整理組合は、特別都市計画法一条、都市計画法一二条二項の準用する耕地整理法五〇条、五一条に基き地方長官の認可により成立したものである。すなわち被告組合は、昭和二二年一二月一二日附東京都北区田端復興土地区画整理組合設立認可申請に対し、昭和二三年三月一三日被告東京都知事が与えた認可により成立した組合である。そして原告は被告組合の区画整理施行地区たる土地の一部所有者である。

二、しかしながら、右認可処分及び被告組合設立の前提たる右認可申請は、耕地整理法五〇条所定の要件を欠くものであるから無効である。つぎにその理由を述べる。

(一)  被告組合の設立にあたつては、右組合の地区たるべき区域内の土地所有者の過半数の同意を必要とするが、本件において同意者数は右過半数に及ばなかつた。被告組合に属する土地所有者総数は本件認可申請当時四五六名であつた。従つてその過半数は二二八名以上でなければならない。然るに本件認可申請において、二四六名の同意ありとされているが、そのうち三九名の同意は、右認可申請当時の土地所有者の前主の同意である(右三九名はいずれも前主の同意後認可申請前売買により所有権を取得した。)しかし同法五〇条の要求する土地所有者の同意とは、勿論組合設立認可申請当時における土地所有者の同意でなければならない。従つて本件における適法な同意者数は二四六名から右三九名を控除した二〇七名にすぎないこととなるから、右土地所有者総数四五六名の二分の一に達しないこととなる。よつて本件認可申請は、同法五〇条所定の要件を欠き無効である。

(二)  区画整理地区内の土地所有者の同意は、設計書及び規約についても、与えられなければならない。然るに本件においては、区画整理地区に編入することについてのみ土地所有者の同意があるにすぎず、設計書及び規約については同意がない。設計書及び規約は被告組合の創立総会にすら上程されなかつたのである。従つてこの点においても、本件認可申請は同法五〇条所定の要件を欠き無効である。

かように本件認可申請が無効たる以上、これを前提とする本件認可処分も無効というべく、右認可による被告組合の設立もまた無効であるといわなくてはならない。

三、つぎに都市計画法一二条二項耕地整理法五〇条によれば、区画整理施行のため、組合の地区たるべき区域内の土地所有者の過半数の同意を得れば、右土地所有者の権利を喪失させあるいは取得させる処分をなし得る組合を設立することができる旨定めているが、賃借権者の同意の要否についてはなんら言及されていない。しかし土地所有者の保護は同時に借地権者の保護とはならない。地主は地代を徴収すれば事足りるが、借地人は現実に家屋を移築する負担がある場合が少くないからである。然るに組合設立手続に借地人を参加させることなく、組合による区画整理施行上借地人に右のような負担を与えることは、その財産権を不当に侵害するもので、憲法二九条一項に反する。たとえ換地処分による減地が一割五分以上の場合、補償金が交付されても、借地人を土地所有者と差別して取扱うことは憲法一四条に反する。よつて本件組合設立手続は違憲であり当然無効である。従つてまた本件組合設立認可処分も無効である。

右の次第であるから主文同旨の判決を求める。

このように述べ、被告東京都知事の本案前の抗弁に対して次のとおり述べた。

被告東京都知事は、「原告は、本件(昭和二五年(ワ)第五七六号事件)につき訴願裁決の手続を経ていないから、本訴は不適法である。」と主張するが、行政事件訴訟特例法二条は、行政庁の違法な処分または変更を求める訴についてのみ、訴願の裁決を経ることを要求しているのであり、行政庁の処分の無効確認を求める場合はこれを除外している主旨であると解しなくてはならない。本法が特例法たることに鑑みても、同条が限定列挙する訴訟以外に同条の主旨をみだりに拡張解釈することは許されない。従つて都市計画法二五条一項は「本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニツキ行政庁ノ為シタル処分ニ不服アルモノハ訴願スルコトヲ得。」と規定されているが、本件のように地方長官の組合設立認可処分が始めから効力を発生していないことの確認を求める訴について、同条による訴願の裁決を経るを要しないのである。

更に被告らの本案の答弁に対して次のとおり述べた。

(一)  被告らは、耕地整理法四条の規定を根拠として、「本件認可申請前の土地所有者の同意の効力は当然その承継人に及ぶものである。と主張するけれども、同条は知事の認可を得て、設立した組合のなす処分、手続その他の行為について、整理施行地の所有者、占有者又は関係人の承継人に対してその効力を及ぼす旨規定したものである。従つて組合設立認可申請前に土地所有者に承継の生じた場合、前主の組合設立についての同意の効力が承継人に及ぶか否かは同条の適用の範囲外の問題に属するというべきである。

(二)  被告らは、「本件組合の設立につき、昭和二一年五月七日同組合地区の土地所有者の大部分が、滝野川区役所会議室に会合し、組合を設立し区画整理を実施するか否かにつき協議した。」と主張するけれども、これは全く事実に反するもので、同日同所に集つた者は数十名にすぎず、勝手に役員選出を行つたのみである。これら数十名の者がいわゆる設立準備委員に対して設計書及び規約の作成を白紙委任したのではない。かりに右委任がなされたとしても、右設計書及び右規約はそのときの僅かな出席者を拘束するにすぎない。更に被告らは、「右会合に出席しなかつた土地所有者にも、設立準備委員は事業内容をよく説明し、あたかも右会合に出席したと同様に、全幅の信任を受け、設計書及び規約についても異議なく諒承を得て、同意書の捺印を受けた。」と主張するが、これもまた全く事実に反するもので、実際は前記委員が設計書及び規約の内容を土地所有者に了知せしめずに同意書に捺印させたのである。

更に被告東京都知事の本案に関する主張に対して、次のとおり述べた。

一、被告東京都知事は、「耕地整理法五〇条一項の規定は、組合設立に必要な条件の一部を定めたものであり、認可申請自体の要件は、同法施行規則四四条の定めるところであり、その要件を欠くか否か、その効力の有無は同法五〇条一項の規定とは別に考察さるべきである。」と主張するが、組合設立の実体的要件は同法五〇条の定めるところであり、施行規則四四条は単なる手続規定にすぎない。規則が法律に優先し、規則によつて組合設立の法定要件を左右し得ないことはいうまでもないから、認可申請の効力の有無を同法五〇条一項の規定とは別個に手続規定たる同法施行規則四四条により判断すべきであるという右主張は失当である。

二、被告東京都知事は、「区画整理組合を成立させる効力をもつ行為は、形成処分たる知事の認可処分のみである。認可申請が同法五〇条の要求する前提条件を欠く場合でも、知事が認可すれば、右認可申請の無効な場合でも、組合を有効に設立させる効力がある。」旨主張するけれども、明文の定めなき限り、認可にかかる効力を認めがたく、認可にかかる効力を与えるとすれば、それは行政権の立法に対する優位を認めることであつて、国会を国権の最高機関とし、立法権は行政権の上位にありとする日本国憲法下において、通用しない見解といわなくてはならない。

三、更に被告東京都知事は、「知事が一応認可申請を受理して認可した以上、たとえ認可に際しての認定に誤りがあつても、それは単に認可処分の取消を求める理由となるにすぎず、当然無効となることはない。」旨主張する。しかし原告は、本件認可処分は重大かつ明白なかしがあるから当然無効であると考える。区画整理組合は、単に知事の認可処分のみにより設立されるのではなく、行政上の効果を目的とする組合設立行為と認可処分との結合によつて設立されるのである。この場合組合設立行為は、耕地整理法五一条を形式的に理解して、適法要件をそなえた認可申請までの行為とみるか、認可は創立総会の成立を条件とする条件付認可として、組合創立総会までの行為を含むか、につき議論があるとしても、法定要件を具備する土地所有者の組合設立行為のないところに、いかに都知事の認可行為があつても組合は成立しないのである。従つてこの場合右認可行為は無効であるというべきである。すなわち土地所有者の組合設立行為が、法定要件を具備するかどうかが、都知事の認可に際しての審査の対象となるのである。そして、右認可は、本来国または公共団体が施行すべき区画整理を施行させる団体の認可であり、実質上公共団体を一つつくるにもひとしい。しかも円滑なる整理施行のためには、右組合が整理施行地の土地所有者全体の信頼を受けていることが肝要である。従つて組合設立行為が民主的になされるかどうか、すなわち組合の根本方針ないし憲法ともいうべき設計書及び規約が全土地所有者により十分審議され、その過半数の同意が得られるか否かは、組合設立における最も重要な点であり、右要件をみたしているか否かについては、他の認可と異なり、特に慎重に職権調査さるべである。然るに被告東京都知事が本件認可申請について、右申請が、同法五〇条所定の、「土地所有者の過半数が設計書及び規約について諒承し、これに基く組合設立に同意がなければならない。」旨の要件を欠くものであることを看過して、右申請を認可したことは、重大かつ明白なかしある処分というべく、右認可処分は当然無効たるを免れないものというべきである。よつて右のような組合設立の要件欠缺の場合でも、単に取消原因たるにすぎないという被告の主張は失当である。

四、また被告東京都知事は、「もし本件組合の設立が無効とされた場合には、従来実施されて来た区画整理事業により地区内の土地を中心として形成されてきた権利の得喪、変更、その他複雑な法律的状態を一挙に覆滅し、法律生活の安定を害し、取引の安全を損うことになるので、かかることは法律全体の精神から許されるべきではなく、認可後の時の経過と、区画整理事業による既成事実の累積とによつて、その無効の認可もすでにそのかしが治癒され、有効な認可に転換したものというべきである。行政事件訴訟特例法一一条は、右と同一の考え方に由来する制度の一つにほかならない。」と主張するけれども、商法四二八条が会社設立の要件にかしある場合、その設立無効を訴求し得る旨規定している点からみても、いかに被告組合設立後既成事実が累積され、法律関係が錯綜している場合においても、組合設立行為が無効なる場合に、その設立無効を訴求し得ることは当然であるといわなくてはならない。また行政処分無効の場合には、処分が明白かつ重大なかしを有するのであるから、行政処分取消訴訟の場合と異なり、行政事件訴訟特例法一一条の適用はないものと解すべきである。このことは同条の明文及び条理に照らして明らかである。よつて被告東京都知事の右主張も理由がない。

以上のとおり述べた。<立証省略>

補助参加人ら訴訟代理人は、原告の請求の趣旨及び原因をすべて援用し、「補助参加人中1.2.3.4.36.40.41.43.ないし49.51.55.56.57.58.61.64.79.81.82.93.98.99.100.102.104.105.106.109.112.ないし117.151.201.203.204.209.211.ないし262.の者は被告組合の区画整理施行区域内に宅地を所有していることにより、右被告組合の組合員である。また補助参加人中、5.ないし35.37.38.39.42.50.52.53.54.59.60.62.63.65.ないし78.80.83.ないし92.94.95.96.97.101.103.107.108.110.111.118.ないし150.152.ないし200.202.205.206.207.210.の者は右被告組合の区画整理区域においてそれぞれ借地権を有する者である。従つて被告組合の組合員たる参加人も、借地権者たる参加人も本件訴訟の結果に重大な利害関係を有するので、原告を補助するため参加したのである。」と述べた。

被告組合の訴訟代理人は、「原告の請求(昭和二四年(ワ)第四九七七号事件)を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

原告主張事実の第一項は認める。第二項中被告組合に属する土地所有者総数が本件認可申請当時四五六名であつたこと本件認可申請当時の土地所有者中三九名はいずれも前主の同意後認可申請前に各一部の土地を売買により承継取得したこと、右三九名については、被告組合設立にあたつて、その同意を得ていないことは認める。その他の事実は争う。

被告組合の主張は次のとおりである。

一、本件認可申請当時の土地所有者総数四五六名の過半数二四六名が、被告組合の設立に同意していた。すなわち、そのうち三九名の同意は、原告主張のとおり、認可申請当時の土地所有者の前主の同意であるけれども、前所有者の同意の効力は当然承継人に及ぶものと解すべきであるから、本件認可申請当時の土地所有者総数の過半数である二四六名について同意があつたものといえる。

耕地整理法四条は、「本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニヨリ為シタル処分、手続其ノ他ノ行為ハ整理施行地ノ所有者、占有者又ハ関係人ノ承継人ニ対シテモ其ノ効力ヲ有ス。」と定めているが、同条は時間的に組合設立後の行為等に関するものに限定して適用されるのではない。耕地整理(区画整理)という事業は相当な時間的経過を必要とし、その間に整理地の所有者または関係人(以下所有者等という)に異動のあることが予想されるのであるから、整理事業に関して行われる処分、手続その他の行為(以下処分等という)が所有者等の承継人に対してもその効力を有することにしないと、何回も処分等が繰返され、しかもなかなか法律関係が確定しないこととなる。この点を処理するための規定が同法四条である。そして組合によつて施行される耕地整理(区画整理)において、組合設立の準備行為も各種の行為を積み重ねる一つの手続であり、その段階的進行には、相当な時間的経過を必要とすること、その間に所有者等の異動があるであろうこと、従つてその場合その承継人についての法律関係をどうするか規定する必要のあること、いずれも設立後の組合が事業を執行する場合に起る問題と同様である。かかる関係からみると、組合の設立準備中における処分等についても、同法四条の規定が適用されるのは当然である。

なお、同法四条の規定の明文上も、処分等をなす主体を組合その他事業施行者に限る趣旨ではないのみならず、前述のような同法四条の規定の本旨からみても、組合その他事業施行者が行う処分等と、土地所有者らの処分等とを区別し、前者のみに同条の適用を限定すべき理由はなにもない。

二、(イ) 区画整理地区内の土地所有者の同意は、組合を設立して区画整理を実施することについて与えられれば十分であつて、設計書及び規約についてまで同意を得る必要はない。

(ロ) かりに設計書及び規約についても同意が必要であるとしても、本件の場合その同意は得られたものとみるべきである。

すなわち、被告田端復興土地区画整理組合の設立については、昭和二一年五月七日同組合地区内の土地所有者の大部分が、滝野川区役所会議室に会合して、組合を結成し区画整理を実施するかどうかについて協議した。同日の席上組合規約の準則(印刷物が一同に配布された)と土地区画の設計の大綱とが経理その他の事項と共に出席者に説明され、質疑応答の結果一同これを諒承し、被告組合を設立することに同意されたが、組合の設立認可申請手続が煩雑な事務であり、細部に至るまで土地所有者の全員が一々会議で処置することは不可能な状態であつたので、出席者の互選によつて組合の設立準備委員(実際には区画整理実行委員であつた。)を選出し、組合の設立認可申請に関する一切を右委員に一任したのである。従つて組合規約をその準則に従つて成文化したり、区画整理の設計書を作成することも、また右委員に全面的に委かされたのである。そして前述の組合規約の準則は、その実体は組合規約の雛型であつて、東京都内の区画整理組合は、いずれもその雛型(準則)に従つて、その組合規約を作成するのであるから、準則を成文化するといつても、規約の意味を右委員らが勝手に変更する余地は全くなかつたものであり、また設計書の大綱も土地の実情に即し、具体的な設計を示すものであつたから、右委員らはこの大綱によつて設計書を組合設立認可申請書に添附できるように整備したにすぎない。従つて規約及び設計書につき、当初の会合に出席した土地所有者の同意があつたものといえる。後に設立準備委員が同意書に捺印を求めたとき、最初の会合に出席していた土地所有者は当然規約及び設計書に同意の意を含めて捺印したのであり、また右会合に出席しなかつた土地所有者にも設立準備委員は事業内容をよく説明し、あたかも右会合に出席したのと同様に全幅の信任を受け、規約及び設計書についても異議なく諒承を得て同意書に捺印を受けたのであつて、これまた事実上規約及び設計書に対する同意があつたものである。

(ハ) かりに右のような事情においては、設計書及び規約について同意があつたものと認められないとしても、同法五〇条一項は、「同意ヲ得テ設計書及規約ヲ作リ」と規定しているのであるから、設計書及び規約を作成することに同意があればよいのであつて、細部に至るまで確定した設計書及び規約についての同意を要求しているものではない。

そして右に述べた事情にあつては、すくなくとも設計書及び規約の作成についての同意はあつたものと認められるから、同条の要件をみたすものというべきである。よつて、設計書及び規約につき、土地所有者の同意を欠くから本件組合設立が無効であるという原告の主張は理由がない。

三、耕地整理法五〇条一項の規定は憲法に違反しない。

原告は、区画整理事業において、土地所有者を保護することは、同時に土地の賃借人を保護したことにならないと断定しているのであるが、所有者と賃借人は一般的には利害対立する場合が考えられるが、区画整理事業という関係においては、所有者と賃借人との利害は相対立することなく、後者の立場は前者のそれに包含されるものである。従つて耕地整理法五〇条一項の規定において所有者の立場を保護する処置がとられていることは、同時に賃借人の立場を保護することとなるのであつて、賃借人の権利を無視しているものではない。そしてまた被告組合においては協力委員会を設けて組合の事業の運営に賃借人の意見を反映させ、その利益の保護に遺憾なきを期しているのである。原告の主張によれば、賃借人は現実に新たに家をつくらねばならず、この点所有者と事情を異にするようであるが、区画整理事業においては、家屋の移転または除却に要する費用と通常生ずる損害とは補償される建前になつているのであつて、(被告組合についてみても、このことは組合規約三七条に規定してある)、同法五〇条一項の規定が、賃借人に組合設立に参加する機会を与えていなくても、これがため特に賃借人の財産権を補償なしに侵害するということはなく、憲法二九条の規定に違反するものではない。また憲法一四条の規定に違反するという原告の主張は、一割五分以上の減地のある場合、その補償について所有者と賃借人とをことさらに差別して取扱つているような事実は全くないのであるから、原告の主張するところは理解しがたい。

被告東京都知事指定代理人は、まず本案前の答弁として、「原告の訴(昭和二五年(ワ)第五七六号事件)を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由を次のとおり述べた。

本件訴訟は、土地区画整理組合の設立の認可という東京都知事の行政処分の無効確認を求め、その行政処分の効力を争うものであるから、訴訟の対象は公法上の法律関係であつて私法上の法律関係ではない。それは行政事件訴訟特例法一条の規定にいう「その他公法上の権利関係に関する訴訟」に該当するものである。従つて本件訴訟には同法が適用されるのであり、同法二条の規定によれば行政事件の出訴要件としては、その行政処分に対して行政庁に対する訴願審査の請求、異議の申立その他不服の申立(以下単に訴願という)のできる場合には、まずその訴願をして、その裁決を経なければならないと規定されている。そして、土地区画整理組合の設立認可に対して不服ある者は、都市計画法二五条一項の規定により建設大臣に訴願ができるのであるから、原告はまず建設大臣に訴願し、その裁決を経なければならない。然るに原告は右訴願手続を履践していないのであるから、本件訴は不適法として却下すべきである。

つぎに、本案の答弁として、被告組合の主張を援用するほか、次のとおり述べた。

一、原告は、耕地整理法五〇条一項の規定に定める要件を認可申請の要件と解し、その要件を欠く認可申請は無効であるから、これに基く認可も無効である、と主張する。けれども同法五〇条一項の規定は組合設立に必要な条件の一部を定めたもので、認可申請自体の要件は同法施行規則四四条の定めるところである。よつて認可申請がその要件を欠くか否か、申請が無効であるか否かは同法五〇条一項の規定とは別に考察すべき問題である。原告の主張は認可申請の要件を誤解せる点において、すでに失当である。

二、かりに認可申請自体の要件を欠くとしても、本件認可処分は、つぎに述べるように知事(地方長官)の一方的形成処分であり、認可申請自体は右処分の発動を求める契機たるにすぎないから、知事の認可がある以上、該処分が無効となることはない。すなわち、都市計画法一二条二項の準用する同法五〇条一項の規定によつて、知事(地方長官)が区画整理組合の設立について与える認可は、区画整理組合という法人格を設定する形成処分であつて、認可申請自体は知事の認可処分を要求する行為として処分の行われるに至る一つの契機たるにすぎない。認可申請は認可処分をするに必要な相手方の行為であるが、区画整理組合を成立させる効力をもつ行為は知事のなす認可処分のみである。従つて本件認可処分は、個人の側における行為も、処分の基礎要素をなすいわゆる認可とは異なり、認可申請が一応形式的に存在する以上、同法五〇条一項の定める要件をそなえるか否かは、認可権ある知事が認定権を有するのである。すなわち、認可申請がその要件を具備するものと知事によつて認定され、組合設立が認可されたならば、たとえ右認定に誤りがあつても、有効の認可たるを失わないのである。認可申請が全くないのに知事が認可したとすれば、その認可は無効であるといえようが、知事が一応認可申請を受理して、認可した以上、右認可が当然無効となることはない。知事が認可に際しての認定を誤まつたとしても、それはただ認可処分の取消を求める理由となるにすぎず、当然無効となるものではない。

三、更に、かりに認可申請自体のかしが認可処分に反映し、かつそのかしが重大かつ明白であるとしても、本件認可処分の効力を具体的にかつ争訟制度の関連において機能論的に考察するときは、該処分が当然無効となることはない。思うに具体的にかしある行政行為が如何なる効力を生ずるかは、具体的事情に即して、各種の法律価値、たとえば法律生活の安定、取引の安全、信頼の保護その他個人的、社会的諸利益の衡量によつて決定する必要がある。本件認可処分について考えると、認可の無効を主張させることにより、すでに実施されてきた区画整理事業により地区内の土地を中心として形成された権利の得喪、変更、その他複雑な法律関係を一挙に覆滅し、法律生活の安定を害し、取引の安全を損う結果を招くとするならば、このような主張は法律全体の精神から許さるべきではない。認可後の時日の経過と区画整理事業による既成事実の累積とによつて、その無効の認可のかしもすでに治癒され、有効な認可に転換したものというべきである。行政事件訴訟特例法一一条が、行政処分が違法な場合であつても、一切の事情を考慮して、処分を取り消し、又は変更することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、その取消をせず、その代りに、当該処分によつて生じた損害の賠償をすべき場合があることを定めているのも、右に述べたところと同一の考え方に由来するものであると解すべきである。

被告らはいずれも「本件参加の申出に異議はない。」と述べた。

<立証省略>

理由

まず被告東京都知事の本案前の抗弁について判断する。

被告東京都知事は、「原告の訴(昭和二五年(ワ)第五七六号事件)は都市計画法第二五条一項の規定による訴願の裁決を経ていないから不適法である。」旨主張するけれども、行政事件訴訟特例法二条は行政処分の取消変更を求める訴についてのみ訴願の裁決を経ることを要求しているにとどまり、行政処分の無効確認を求める訴についてはなんら言及していない。これは本来行政処分の無効は、処分に内在するかしが重大であつて、処分の効力が当初よりなんら発生していない場合であるから、何人も出訴期間の制限または訴願等の経由の手続を経ることなく、確認の利益ないし必要のある限り、直ちに司法上の救済を求め得ることとし、同条が行政処分の無効確認を求める場合を除外している主旨であると解すべきである。本法が特例法たることに鑑みても、同条が限定列挙する争訟以外に同条の趣旨を拡張解釈することは許されない。従つて特別都市計画法に基く行政処分取消訴訟について、同法二六条、都市計画法二五条二項によつて訴願の裁決を経由する必要がないと解すべきか否かの問題は別としても、本件のように知事(地方長官)の被告組合設立認可処分の無効であることの確認を求める行政処分無効確認訴訟においては、訴願裁決を経由する必要はないものといわなくてはならない。よつて被告東京都知事の本案前の抗弁は理由がない。

被告田端復興土地区画整理組合が特別都市計画法一条、都市計画法一二条二項の準用する耕地整理法五〇条五一条に基き地方長官の認可により設立された組合であること、すなわち昭和二二年一二月一二日附東京都北区田端復興土地区画整理組合設立認可申請に対し昭和二三年三月一三日被告東京都知事の与えた認可により被告組合が設立されたこと、及び原告が被告組合の地区たるべき区域内の土地所有者であることはそれぞれ当事者間に争いがない。

被告東京都知事は、「耕地整理法五〇条一項の規定は組合設立に必要な条件の一部を定めたものであり、認可申請自体の要件は同法施行規則四四条の定めるところである。その要件を欠くか否か、その効力の有無は同法五〇条の規定とは別に考察さるべきである。」と主張する。しかし同法五〇条は組合設立の実体的要件を定めた本質的規定であり、同法施行規則四四条は認可申請書の記載事項及び添附書類等認可申請の手続上の要件を定めた細則的規定に外ならない。すなわち組合設立認可申請にあたつて、同法五〇条の法定要件を具備することは適法かつ有効な認可申請の必要不可欠の実体的要件をなすものというべきである。よつてこの点に関する被告の右主張は失当である。

つぎに被告東京都知事は、「知事(地方長官)が区画整理組合の設立を認可する処分は、区画整理組合という法人格を設定する形成処分であつて、認可申請自体は右処分を要求する契機たるにすぎず右組合を成立させる効力を有する行為は、ただ知事の認可処分のみである。従つて右組合は、右認可申請が同法五〇条の要件を具備するか否かにかかわりなく、知事の認可処分のみによつて成立する。」旨主張するので、この点について考察する。

特別都市計画法一条、都市計画法一二条二項により準用される耕地整理法五〇条によれば、組合(区画整理組合)を設立するためには、組合の地区たるべき区域内の土地所有者総数の二分の一以上にしてその区域内の土地の総地積及び総賃貸価格の各三分の二以上の土地所有者の同意を得て、設計書及び規約を定めて地方長官(知事)の認可を受くべく、同法五一条によれば、右組合は地方長官(知事)の認可により成立すべき旨明定されている。従つて右組合の設立に主務官庁たる知事の認可を要するのであるが、右組合は、被告主張の如く単に知事の一方的形成処分たる認可によつてのみ成立すると解すべきではなく、同法五〇条所定の法定要件を具備する組合設立行為(ここではひろく、設計書及び規約の作成を主要部分とする組合設立手続に必要な一連の法律行為を指称する)と知事の認可処分との結合によつて成立するものと解するのが相当である。すなわち右認可処分は組合設立の効力発生要件であつて、その性質上土地区画整理組合に法人格を設定する形成処分に属するが、組合設立認可申請を一つの契機として行われる行政庁(知事)の一方的形成処分ではなく、組合設立行為が法定の要件を具備し、有効に成立することを前提として、主務官庁がこれに同意を与え、その行為の効力を完成させるためになされる補充的意思表示に外ならない。従つて前提要件たる組合設立が有効でない場合には、右認可処分もその根底を失い、無効とならざるを得ないのであつて、たとえ、知事の認可処分がなされても、知事の認可があつたという一事によつて前提要件の欠缺を補充し、有効に組合を成立させることは到底できない。けだし、かりに被告組合の設立が同法五〇条の法定要件を充足するか否かにかかわりなく、単に知事の認可処分のみによつて右組合が成立する旨の被告主張が正当であると仮定した場合、組合設立認可申請前の手続が如何に違法であつても、知事の認可のみによつて組合が有効に成立することとなり、同法五〇条が組合設立認可申請前の準備手続につき種々の法定要件を要求し、同法五四条が規約等の変更につき地方長官(知事)の認可前に総会の議決を要求している趣旨はいずれも没却され、組合設立手続が適法か否かについての主務官庁(知事)の審査は全く無意味なものとなる等諸種の不合理な結果を招くこととなるであろうからである。

よつて被告東京都知事の右主張は採用しがたい。

そこで進んで、本件組合設立行為が、同法五〇条所定の法定要件を具備しているかどうかについて判断する。

一、被告組合の設立にあたつて、右組合の地区たるべき区域内の土地所有者総数の二分の一以上が右組合の設立に同意することが必要であるが、本件において同意者数が法定の過半数に達したかどうか。

被告組合に属する土地所有者総数が本件認可申請当時四五六名であつたこと、本件認可申請当時の土地所有者中三九名はいずれも前主の同意後認可申請前に各一部の土地を売買により承継取得したこと、右三九名については、被告組合設立にあたつてその同意を得ていなかつたことは当事者間に争いがない。

被告らは耕地整理法四条を根拠として、「右三九名についてはその前主がなした同意の効力は当然承継人に及ぶから、本件認可申請当時の土地所有者総数の過半数をこえる二四六名につき同意があつたものといえる。」と主張する。よつてこの点について考える。同条は「本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ為シタル処分手続ソノ他ノ行為ハ整理施行ノ所有者、占有者又ハ関係人の承継人ニ対シテモ其ノ効力ヲ有スル。」と規定しているのみで、規定の明文上、処分、手続その他の行為をなす主体が明らかでないが、同条の文理上、区画整理施行者として知事の認可を得て設立された組合の行う処分、手続その他の行為について、区画整理施行地の所有者または関係人の承継人に対してその効力を及ぼす旨規定したものと解すべきである。同条が適用されるのは、組合の設立認可がなされたとき以降の段階においてである。かりに、被告ら主張のように組合設立認可申請当時の土地所有者の前主の同意の効力が当然承継人に及ぶものと解した場合、右認可申請当時の土地所有者はその意に反しても、前主の同意の拘束を受けることとなり、土地所有者の一旦与えた同意は、また組合設立認可申請のなされていない段階においても、絶対にこれを撤回することはできないこととなる。しかしこのようなことは実際上も妥当でないのみならず、同法五〇条はあくまで組合設立認可申請当時における土地所有者について過半数の同意を要求しているものと解すべきであるから、被告らの右主張は理由がないといわなくてはならない。従つて本件認可申請当時の土地所有者の前主三九名の同意の効力は承継人に及ばないものと解すべきである。

してみると、右認可申請当時の土地所有者の同意者数は、被告ら主張の二四六名から三九名を差引いた二〇八名となり、当時の土地所有者総数四五六名の二分の一に達しないこととなる。

よつて本件組合の設立は、すでにこの点において、同法五〇条所定の法定要件の一つを欠缺するものといわなくてはならない。

二、つぎに、前記土地所有者の同意は設計書及び規約についても与えられていることを要するか否かにつき考察する。

被告らは、「組合の地区たるべき区域内の土地所有者の同意は、組合を設立して設計書及び規約を作り、区画整理を実施することについて与えられれば十分であり、組合設立にあたつて設計書及び規約の各内容についてまで同意を得る必要はない。」と主張する。しかし、本来法が組合設立による区画整理の施行を認めた所以は、関係人らの同意のもとに自主的に円滑なる整理が施行されることを期待したものというべきところ、設計書は工事施行の準則であり、規約は組合の自主法規であつて、いずれも組合員となるべき者が、区画整理の施行に同意するにあたつて、組合の事業内容を知り得べき最も重要なる資料であるといわなければならない。従つて同法五〇条一項は、「耕地整理組合ヲ設立セムトスルトキハ……土地所有者ノ同意ヲ得テ設計書及規約ヲ作リ地方長官ノ認可ヲ受クベシ」と規定しているが、同条項は組合設立認可申請者は、まず設計書及規約を作成し、これに基く組合設立についての同意を求め、その同意を得ることが必要である旨定めたものと解しなくてはならない。それ故被告ら主張のように、漫然組合設立に関する同意を得た後、任意に設計書及び規約が作成された場合には、右同意の効力は生じないものと解すべきである。

なお同法施行規則四四条所定の認可申請書の添附書類のうちに、設計書及び規約についての同意書が明記されていないけれども、さきに述べたとおり同条項は組合設立認可申請自体の実体的要件を規定したものでなく、単に手続上の細則を定めたものにすぎないから同条項を理由に右認可申請について設計書及び規約の同意が不要であると解することは失当である。

また同法五四条によれば、設計書または規約を変更せんとするときは総会の議決を経て地方長官の認可を受くべき旨規定し、組合の設計書ないし規約に対し組合員の過半数の意思に基くことを要求すると共に地方長官の行政上の監督を要求している。従つて組合設立認可申請者は、設計書及び規約を確定して地方長官の認可申請をなすべきであり、設計書及び規約の作成についての同意があればその細部に至るまで確定していなくとも、認可申請の要件を充足するものであるという被告主張は、同条項の主旨に反する結果を容認することにもなるので是認しがたい。

従つて土地所有者の同意は、前記認可申請にあたつて、設計書及び規約について与えられることを要するものと解すべきであり、これに反する被告らの主張は失当であるといわなくてはならない。

そして、被告らの全立証をもつてするも、本件組合設立認可申請者が、まず設計書及び規約の案を作成し、これに基く組合設立についての同意を求め、土地所有者の法定数の同意を得られたことを確認することはできない。かえつて、証人江川二郎、中村ゆきの各証言及び原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証、被告組合との間において成立に争がないこと並びに証人中村ゆきの証言、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第三号証及び証人江川二郎、大野耐二、中村ゆき、保坂[金惠]太郎、津田元四郎の各証言、原告本人尋問の結果を綜合すれば、被告田端復興土地区画整理組合の設立について、昭和二一年五月七日同組合地区内の土地所有者の会合が滝野川公会堂において行われ、その結果土地区画の設計の大綱について説明があり、組合を設立し規約及び設計図を作成することを一同諒承し、組合設立準備委員が選出され、組合設立認可申請手続は同委員一任とされたが規約及び設計書の内容に立ち入つての論議はなされず、単に集会者は設計書及び規約の作成に同意したにとどまり、その内容にまで同意を与えたものではなかつたこと、組合設立についての同意書を集めるに際しても、漫然組合設立についての同意を求めたにとどまり、設計書及び規約を示し、あるいはその内容を話して設計書及び規約自体につき相手の同意を求めたものではなかつたことが認められ、これに反する甲第二号証の一、二、乙第一号証の一ないし九、第二号証の一ないし一一五は信用しがたく他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

よつて被告組合の設立行為は、同法五〇条一項の要求する土地所有者の設計書及び規約についての同意を欠くものであるから、この点においても、無効であるといわなくてはならない。

なお、本件組合設立行為につき、土地所有者の同意が法定数に達しないこと、設計書及び規約自体について土地所有者の同意なきことは、いずれも重要な法規違反であり、右組合設立認可申請の実体的要件を欠缺する重大なかしに外ならぬから、右認可申請に対して知事がこれを看過してした本件認可処分が、また重大なかしある処分として当然無効たることはいうまでもない。被告東京都知事は、「知事が一応認可申請を受理してこれを認可した以上、認可に際して認定の誤りがあつても、それは認可処分の取消事由となることはあつても、無効事由とはならない。」旨主張するが、この主張は、右理由から明らかに失当である。

更に被告東京都知事は、「被告組合の設立が無効とされた場合、右組合の設立が有効であるとの前提のもとに、右組合の区画整理事業により形成された各種の法律関係並びに事実状態が一挙に覆滅し法律生活ないし取引の安全は失われるに至るので、かかることは法の精神から許さるべきではなく、組合設立認可後の時の経過と区画整理事業による既成事実の累積とにより無効の認可も有効な認可に転換したものというべきである。行政事件訴訟特例法一一条も右と同一の考え方に由来する。」旨主張する。しかし本件は、既に述べたとおり、本件認可処分の前提たる被告組合設立行為自体に重大なかしが存する場合であるから、単に認可申請手続における手続上の軽微なるかしの場合と異なり、無効の認可についてのかしが時の経過と既成事実の累積とにより治癒されることはないものと解すべきである。商法四二八条が会社設立の要件にかしある場合、その設立無効を訴求し得る旨規定している点に対比しても、このことは当然であり、行政庁の違法な処分に対し、ひろく不服申立の途を開き、右処分によつて侵害された個人の権利救済をはかる法の精神に照らしても、このように解すべきである。また行政事件訴訟特例法一一条一項は、第二条の行政処分の取消または変更を求める訴についてのみ妥当するのであつて、本件について同条を援用するのは適切ではない。従つて被告東京都知事の右主張も採用しがたい。

以上のとおり、本件組合設立行為は、特別都市計画法第一条、都市計画法一二条二項によつて準用される耕地整理法五〇条の要件を具備する同意を欠く点において、爾余の判断をするまでもなく、無効であるというべく、これを前提要件とする本件組合設立認可処分は、その前提たる行為が無効たる以上、当然その基礎を欠く行為として無効となると解しなくてはならない。従つて被告組合は、たとえ知事の認可が形式上あつたとしても、当初より成立していなかつたものというべきである。そして被告組合の成立が右のように否定される以上、原告が被告組合に対して組合員たる地位を有しないことはいうまでもない。

なお本件訴訟において、(昭和二四年(ワ)第四九七七号事件)原告は、被告組合の設立が無効であることの確認を求めているけれども、法律上かかる「設立を無効とする確認」の訴を提起し得るものとする明文の定めなき限り、このような訴は許されないものと解すべきであるから、右申立は、原告が被告組合の組合員たる法的地位すなわち組合員としての組合に対する権利義務を有しないことの確認を求める主旨と解するのが相当である。従つて本件訴訟の既判力の人的範囲が訴訟当事者に限定されることはいうまでもない。

よつて原告の本訴各請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 粕谷俊治)

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